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日記だよー

にむらじゅんこ『クスクスの謎』が面白い

[caption id="attachment_3691" align="aligncenter" width="580" caption="にむらじゅんこ『クスクスの謎』(平凡社新書)"][/caption] 『クスクスの謎―人と人をつなげる粒パスタの魅力 (平凡社新書)』を読みました。著者は、大好きなにむらじゅんこさん。 クスクスを初めて食べたのが一昨年(!)でした。その時いただいたのは、手作りのクスクス。フランスに二度留学していた師匠に拠れば、「ちゃんとしたフランス料理店なら、日本でもクスクスを食べられるはずです」とのこと。わたしのお気に入りのフレンチレストラン、オー・バカナル紀尾井町店でも食べることができました。というわけで、わたしのクスクス経験はたった二回。クスクスについては知らないことばかりだったので、『クスクスの謎』をとても面白く読むことができました。 にむらさんによる、中国の画家サンユー(常玉)に関する研究論文は、豊富な資料を用いた説得力のあるものでした。その調査力を持ってして書かれたこの『クスクスの謎』は、論文ではないけれど、クスクスの定義や語源、歴史、レシピなどについて広く扱った読みやすい本です。新書ではありますが「クスクスの専門書」と言っても良いでしょう。 あまり日本では馴染みのないクスクスですが、フランス国民が好きな料理の第二位 *1とのこと。外部から伝わってきたクスクスは、今やフランスの国民食とも言えるほどメジャーな料理だそうです。
クスクスを「フランス料理」として取り入れることは、国家・伝統・国境といった帰属関係を解除しながらフランス料理に新しい風を吹き込んでいこうとする試みであり、フランスのアイデンティティを再構成していきたいという理想でもあるはずだ。料理というものは、国家アイデンティティを作る文化装置であると同時に、ナショナリズム脱構築装置にもなる。クスクスは、しばしば、フランスにおいてナショナリズム脱構築装置的な役目を担っていると言えるのではないかと思う。(p25 l9-15)
読んでいて「これは!」と思った部分を引用してみました。異なる宗教、異なる文化を持った人々が暮らす現在のフランスを定義しようとするとき、作られた〈伝統〉にそれらを押し込めたり、あるいは排除したりするのではなく、新しく捉え直す必要があります。フランスの食生活にしっかりと根付いたクスクスは、多様性を含んだ新しいフランスを象徴する料理なのかもしれません。 本書は、クスクスについての本であると同時に、クスクスを通して、文化というものが決して固定化されたガラパゴス的な単一のものではなく、それは、さまざまな影響関係の中で他の文化を吸収し、交渉し、形を変えるものだということを知るための良書であると思います。とはいえ、とっつきにくくない平易な文章で書かれているので、誰でも読むことができます。 クスクスについて知りたいひと、食文化について考えてみたいひと、多文化研究や越境文化について学びたいひと *2にオススメの一冊。

*1:P24参照

*2:研究書ではないのですが、エッセンスはふんだんに含まれているので。